JKになりたい

何か書きたいことを書きます。主にWeb方面の技術系記事が多いかも。

職務記述書(ジョブディスクリプション)の書き方に気をつけないと知らずのうちに候補者を除外してしまってるかもしれない

はじめに

www.oreilly.co.jp

最近、「エンジニアリングマネージャーの仕事」を読んだんですよ。

この本の7章では採用について書かれていて、途中「採用のための職務記述書(ジョブディスクリプション)を書こう!」という節があります。

そこで「職務記述書によっては、無意識のうちに候補者を除外してしまうという事実ある。特に女性の候補者に対しては顕著である。」と述べられているんですね。

私も採用業務を抱えており職務記述書を書くことも多いこともあって、このあたりは採用の文脈問わず、気をつけられるようにならないとなと思うので興味深い内容でした。


本書には、具体的に気をつけるべきポイントはいくつか書かれているんですが、今回はその中から自分が気になった2トピックだけ取り上げたいと思います。

(1) 要求スキルを全て満たしてなければ応募しない人が多いことを知る

職務記述書に要求するスキルリストが書かれているのは一般的ですよね。

「男性はその中の6割程度当てはまっていたら応募しうるが、女性はすべて満たしていないと応募しない傾向がある」と本書では記述されています。

本書はそれだけで終わっているんですが・・ 本当か?じゃあリストの内容を少なくしたらいいのか?そんな単純な話を述べているんだろうか?という疑問が湧いてきます。


もう少しだけ深く調べてみます。

これは「LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲」が参考文献だとされていましたが、本書を私は読んでないのでエビデンス不明です。

が、こんな記事があったのでこの記事を少しみてみましょう。

hbr.org

「全ての要求リストを満たしていないという理由で応募しなかったとき、それはなぜか?」を1000人以上のアメリカ人男女に聞いてみた、ということが書かれています。

(以下、自分の解釈)

アンケートの結果を見ていきます。

まず「応募しても受からないと思った」という理由と「そもそも応募する資格がないと思った」は似ているようで全然違います。

前者は、「総合的に判断して自分がこの職場でやっていけるかということを判断した上でやめた」ということですが、後者は「記載の内容をルールだと思い、それに従った」という側面が強いものだと考えられます。

この解釈のもと結果を見ると、女性は40.6% + 21.6% + 15.0% = 77.2%の人が、 男性は46.4% + 12.7% + 8.5% = 67.6%の人が「そもそも私には応募する資格がない」と判断しているようでした。

確かに女性の方がこの割合は高いので、ルールに従うという習慣がより強いのはわかります。

が、職務記述書の文脈で言うと、「女性の候補者を知らないうちに除外してしまうかもしれないよ」ではなく、男女問わずこの辺りの表現には気をつけないと不要に候補者を除外してしまうことになりそうです


自分の想像以上にそういう傾向を持つ人が多いと言うのは驚きでした。私は「Pythonの経験が必須の求人でも、直前にPythonの勉強をしたら応募していい」という感覚だったので。

(2) ジェンダーバイアスのかかった言葉を使わない

「言葉遣いや言い回しは重要です。男性的な言葉、女性的な言葉があり、意識せずに求人広告にジェンダーバイアスを埋め込んでしまいます」と本書には記述されています。

しかしジェンダーバイアスのかかった言葉とは何なのか?や、ジェンダーバイアスを埋め込んでしまうことがなぜ駄目なのか?が述べられていません。調べましょう。


自分はそもそも「ジェンダーバイアスがかかった言葉って何」というところからだったので、そこから調べてみます。

具体例を挙げてもらえると「ああそういう感じのやつね」となると思うので例をClaudeさんに聞いてみましょう。

ジェンダーバイアスのかかった表現には、以下のようなものが挙げられます。

1. 職業や肩書きに「男性形」を使うこと
chairman (chairperson の代わりに)
policeman (police officer の代わりに)
fireman (firefighter の代わりに)

2. 男性を規範とする表現
"man and wife" (husband and wife の代わりに)
"working man" (worker の代わりに)

3. 性的な言葉遣いや性差別的な言葉
"girl" (大人の女性を指して)
"babe", "honey" など親しげな呼び方
"bitch", "whore" などの蔑称

4. 男女の役割や性質を固定化する表現
"women belong in the kitchen"
"men are strong, women are delicate"

5. 女性を従属的な存在と位置付ける表現
"a woman needs a man to..."
"behind every great man, there's a great woman"

このように、特定の性別を優位あるいは劣位に位置付けたり、固定観念に基づく表現は、ジェンダーバイアスにつながる可能性があります。近年は、性中立的で包括的な言葉遣いが推奨されています。

例えば上記の例の代わりに、chairperson、police officer、firefighter、spouseなどを使うことで、バイアスを避けることができます。言葉一つ一つに気をつけることが大切です。

なるほど。具体例を挙げてもらうと納得の内容です。

(1)は日本語では「保母」「看護婦」などは真っ先に思いつく表現ですね。ただ、英語圏の〜manの対比だと「士」が近いんですかね。

Web系開発者の文脈だと思いつきませんでした・・。

また、(2)~(5)の表現をするような会社に入りたいとは思わないですよね。


ただ、ジェンダーバイアスのかかった言葉というのはこんな露骨なものだけではないようです。もう少しだけ詳しく調べてみます。

論文「Evidence That Gendered Wording in Job Advertisements Exists and Sustains Gender Inequality」を参照してみます。

https://gender-decoder.katmatfield.com/static/documents/Gaucher-Friesen-Kay-JPSP-Gendered-Wording-in-Job-ads.pdf

必要な箇所だけ絞って超ざっくり要約すると「ジェンダーに関連するような、男性的・女性的なテーマをもった言葉遣いが存在する。女性的な表現よりも男性的な表現が多く含まれるように求人広告を構成した場合、女性はこれらの職業に魅力を感じなかった。所属感や仕事への関心を低下させる。」と検証のもと評されています。

そして、「性別による表現は女性に最も大きな影響を与える。男性に対しては男性的な言葉でかかれた仕事の方がわずかに魅力的だと感じる傾向があるものの、帰属意識による性別の言葉遣いの影響はなかった」とも述べられています。


この点において気をつけないと、女性候補者を不用意に除外してしまうことになりそうですね。

では、具体的にどんな表現が該当するのであろうか?という話です。それは以下のジェンダーバイアス表現チェックツールのFAQが参考になります。

gender-decoder.katmatfield.com

男性的なテーマをもった単語には「恐れ知らず」「論理的」「客観的」「自立した」「自信がある」「優れた」などが挙げられています。

こういう表現やりがちですよね。「未知の問題に論理的思考力をつかって果敢に立ち向かう、自走できるデータサイエンティストを募集!」みたいな。身に覚えあるなあ。

嘘偽りはないからいいじゃん!という話ではなくて、このような表現を多用してしまうと求める能力のある女性に対しても排斥効果を生んでしまうというのが問題なんですね。

感想

人材不足の昨今、優秀な人材は男女問わず採用したいのは当然です。

それなのに職務記述書の段階で知らず知らずのうちに多数の人がこぼれ落ちてると悲惨ですね。

改めて、表現の重要性に気付かされました。 自分の思いや要求をそのまま素直に書いたらいいだけでは決してないということですね(๑╹ω╹๑ )